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名古屋地方裁判所 平成12年(ワ)1976号 判決

原告

中島さだ

外一七名

右原告ら訴訟代理人弁護士

浅井正

右原告ら訴訟復代理人弁護士

岩田宗之

被告

第一生命保険相互会社

右代表者代表取締役

森田富治郎

右訴訟代理人弁護士

山近道宣

矢作健太郎

熊谷光喜

内田智

和田一雄

中尾正浩

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

1  被告は、原告らに対し、各金五五万五五五五円及びこれに対する平成一二年五月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

第二  事案の概要

本件は、加藤和夫(以下「和夫」という。)が被告との間で、保険契約者兼被保険者和夫、死亡保険金受取人加藤清正(和夫の父。以下「清正」という。)、普通死亡保険金一〇〇〇万円とする内容の生命保険契約を締結していたところ、保険金受取人である清正が死亡し、その後、保険契約者(兼被保険者)である和夫(清正の第一順位の唯一の相続人)も保険金受取人を再指定しないまま死亡したので、清正の第二順位の相続人又はその順次の相続人となる兄弟姉妹又はその子や孫である原告らが、商法六七六条二項の適用ないし準用により保険金受取人になると主張して、被告に対し、右保険契約に基づいて、民法四二七条により普通死亡保険金一〇〇〇万円を平等に分配した各金五五万五五五五円及びこれに対する本訴状送達日の翌日である平成一二年五月二六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを請求した事案である。

被告は、本件の死亡保険金請求権が原告らに帰属しないなどと主張して、原告らの本訴請求を争っている。

一  前提事実(証拠を記載したもののほか、当事者間に争いがない。)

1  被告は生命保険業を行うことを目的として保険業法に基づき設立された相互会社である。

2  和夫は、被告との間で、昭和五七年八月一日、次の内容による生命保険契約(特別終生安泰保険(S五六)。以下「本件保険契約」という。)を締結した。

(一) 被保険者 和夫

(二) 累積生存保険金受取人

和夫

(三) 死亡保険金受取人 清正

(四) 払込期間満了日

平成一八年七月三一日(乙七号証)

(五) 保険料(団体扱月払)

金七七七五円

(六) 支払保険金

普通死亡のとき 金一〇〇〇万円

災害による死亡のとき

金二〇〇〇万円

3  清正は、昭和五八年一月二九日死亡し、その相続人は、同人の子である和夫であった(甲一号証、二号証の一ないし三)。

なお、原告らは、別紙相続関係図記載のとおり、清正の兄弟姉妹又はその子、孫である(甲三号証、四号証の一ないし七、第五号証の一ないし七、第六号証の一ないし七、第八号証)。

4  和夫は、本件保険契約の受取人を再指定することなく、平成一〇年一一月二七日死亡した。

なお、和夫には相続人が存在しない(甲一号証、二号証の一ないし三)。

二  争点

1  生命保険契約において、死亡保険金受取人が死亡し、指定受取人の当時の唯一の相続人が保険契約者兼被保険者であり、その保険契約者が受取人を再指定する権利を行使しないまま死亡した場合、商法六七六条二項の適用ないし準用により、死亡保険金受取人である亡清正の兄弟姉妹又はその子や孫である原告らに死亡保険金請求権が帰属するか(請求原因)。

(原告らの主張)

(一) 保険契約者が保険金受取人の唯一の相続人であり、かつ、保険契約者が死亡したときに、保険金受取人の相続人又は順次の相続人で生存しているものがいないときは、次の理由により保険契約者の相続放棄の意思を推定し、相続放棄があったものとみなして、保険金受取人の死亡時に第二順位の相続人又はその順次の相続人が保険金受取人となると解すべきである。

(1) 他人のためにする生命保険契約の保険契約者の意思はできる限り尊重されるべきであり、第三者を保険金受取人とする生命保険契約を締結する者の現時の一般的意識を前提とするときは、保険金受取人が指定受取人の法定相続人である保険契約者自身に変更されるものとされる場合でも、保険の性質が保険契約者自身のためにするものに変わるものではないと解すべきである(最高裁第二小法廷平成四年三月一三日判決・民集四六巻三号一八八頁参照)。

(2) 保険金受取人の唯一の相続人である保険契約者(兼被保険者)が保険金受取人の再指定の権利を行使せず、かつ、保険金受取人の死亡後に婚姻や養子縁組をしたり、子をもうけたりしなかったときは、保険金受取人の第二順位の相続人に保険金を取得させる意思が積極的ではなくとも、いくらか存するのが通常である。

(二) 原告らは、別紙相続関係図のとおり、清正の兄弟姉妹又はその子や孫であるところ、右のとおり商法六七六条二項の適用ないし準用により、保険金受取人となるものと解すべきであり、原告らの権利の割合は、民法四二七条により平等である。

(被告の主張)

(一) 生命保険契約において、指定受取人が先に死亡した場合の取扱と解釈

(1) 指定受取人が被保険者より先に死亡した場合については、商法六七六条に規定があり、実務及び最高裁判例(同第三小法廷平成五年九月七日判決・民集四七巻七号四七四〇頁参照)により踏襲されている大審院判例(同第一民事部大正一一年二月七日判決・民集一巻一号一九頁参照)によれば、保険金額を受け取るべき者の相続人とは、指定されていた死亡保険金受取人の死亡の時における相続順位に従い相続人となった者のことであり、その相続人がまた死亡したときは、相続人の相続人もしくは順次の相続人にして生存する者をもって受取人となす趣旨であると解されている。

(2) 本件では、指定受取人である清正が死亡したことにより、同人の死亡の時における相続順位に従い相続人となる者、すなわち同人の子である和夫が受取人となる。そして、その後和夫が死亡したので、和夫の相続人もしくは順次の相続人にして生存する者が新たな受取人になるところであるが、和夫の相続人もその順次の相続人も存在しない。

(二) 受取人が欠けるに至った場合の解釈

第三者を指定受取人とする生命保険契約は、第三者のためにする契約である。第三者のためにする契約において、第三者が死亡し、商法の規定によっても補充できず、第三者が欠けるに至るときは、生命保険契約は、本則に戻り、自己のためにする契約となると解される。即ち、死亡保険金請求権は、保険契約者に帰属することになる。

(三) 本件死亡保険金請求権は、和夫の遺産であり、その相続財産管理人の請求により支払われるべきものである。

2  死亡保険金から差し引かれるべき金額があるか(抗弁)。

(被告の主張)

(一) 和夫は、本件普通保険約款第二七条一項所定の契約者貸付制度に基づき被告から次のとおり貸し付けを受け、その元利合計金額は、平成一〇年一一月二七日現在元金二四万三九四二円、利息金一八八三円、合計金二四万五八二五円である。

(1) 貸付日 平成一年一〇月九日

(2) 貸付額 金二四万四〇〇〇円

(二) 本件普通保険約款二七条四項には、「保険契約が消滅した場合に貸付があるときは、会社は支払うべき金額から貸付金の元利金を差引く」旨が定められており、被告は、本件死亡保険金を支払うに当たり、これから右元利金を差し引くものとする。

(原告らの主張)

和夫の貸借関係は不知である。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  本件保険契約は、保険金受取人と被保険者が異なっており、かかる生命保険契約において、保険事故発生前に保険金受取人が死亡したときは、商法六七六条一項により保険契約者がさらに保険金受取人を指定することができるが、保険契約者がこの保険金受取人を再指定する権利を行使しないで死亡したときは、同条二項により「保険金額を受取るべき者の相続人」をもって保険金受取人とすると定めている。

そして、同条項にいう「保険金額を受取るべき者の相続人」とは、保険契約者によって保険金受取人として指定された者(指定受取人)の法定相続人(指定受取人死亡時における相続順位に従う)又はその順次の法定相続人であって、被保険者の死亡時に現に生存するものをいうと解すべきである(大審院大正一一年二月七日判決・民集一巻一号一九頁、最高裁平成五年九月七日判決・民集四七巻七号四七四〇頁参照)。

本件においては、指定受取人死亡時における相続順位に従った法定相続人は和夫であり、和夫又はその順次の法定相続人で被保険者(本件保険契約では和夫)の死亡時に現に生存するものが、商法六七六条二項の保険金受取人となるべきところ、該当者が存在しない。

2 原告らは、前記した理由により、保険契約者が保険金受取人の唯一の相続人であり、かつ、保険契約者が死亡したときに、保険金受取人の相続人又は順次の相続人で生存しているものがいないときには、保険契約者の相続放棄の意思を推定し、相続放棄があったものとみなして、保険金受取人の死亡時に第二順位の相続人又はその順次の相続人が保険金受取人となると解すべきであると主張する。

確かに、原告らが主張するように、他人のためにする生命保険契約の保険契約者の意思はできる限り尊重すべきであり、保険金受取人が指定受取人の法定相続人である保険契約者自身に変更される場合でも、直ちに保険契約者自身のためにする生命保険契約に変わるものではないといえる。

しかしながら、商法六七六条二項により指定受取人の相続人が保険金請求権を取得するのは、指定受取人の地位の相続の効果によるものではないこと、そもそも相続放棄については、民法九三八条により家庭裁判所に申述する方式を定めていることからすると、保険金受取人の唯一の法定相続人である保険契約者が保険金受取人の再指定の権利を行使せずに死亡したからといって、相続放棄の意思を当然に推定できるものではなく、相続放棄があったとみなすこともできないこと、また、保険金受取人の唯一の相続人である保険契約者が保険金受取人の再指定の権利を行使せず、かつ、保険金受取人の死亡後に婚姻や養子縁組や子をもうけたりしなかった(保険金受取人となるべく保険契約者の法定相続人を創設しなかった)ことをもって、保険金受取人死亡時における相続順位とは異にする保険金受取人の第二順位の相続人又はその順次の法定相続人に保険金を取得させるのが、保険契約者の通常の意思であるとまではいえないこと、その他保険契約者の債権者の利益なども考慮すると、保険金受取人の死亡時に第二順位の相続人又はその順次の相続人に対しても、商法六七六条二項を適用ないし準用すべきであるとする原告らの主張は採用できない。

3  そうすると、原告らは、商法六七六条二項にいう「保険金額を受取るべき相続人」に該当せず、また、同条項を準用すべき理由もないので、本件保険契約の死亡保険金請求権を取得したものとは認めることはできず、その余の争点を判断するまでもなく、原告らの本訴請求は理由がないことになる。

第四  よって、原告らの本件請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官・佐藤真弘)

別紙相続関係図<省略>

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